サンバ化
 高田馬場駅の早稲田口を降り、早稲田通りを中野方面に向かって歩いて、栄通りを20メートル程過ぎた右側のビルの壁に張ってあったポスターを見た時、私は驚いたものだった。
 そのポスターは縦長で、中央やや左よりに踊っている女性の写真がメインとして写っており、その右側に文字が印刷されているという構成を取った、まぁ比較的一般的なデザインであった。だが、私はその女性の写真と、何よりそこに込められている情報に、心底圧倒されてしまった。そこに書いてある文字はこうだ。
 『SANBA to YOSAKOI』
 サンバである。そう、サンバなのである。よく見れば踊っている女性の姿も、例のセクシーサンバスタイルである。満面の笑みを浮かべている。私は以前この駄文コーナーで浅草のサンバ祭りを取り上げ、図らずしも、少し小馬鹿にしたような論調で語ってしまったが、しかし、事態は私が考えていた以上に大変なことになっているようなのであった。
 サンバの増殖。
 言うなればそのような事態に、世間は陥っているようなのである。
 ポスターをさらによく見てみると、どうやら高田馬場で行われる「大高田馬場祭り」の出し物として、サンバをやるらしいということが分かる。浅草でサンバの行進が行われ、高田馬場ではサンバの祭りが開かれる。しかもto YOSAKOI。サンバからヨサコイへ。一体何が「to」なのだろうか。私はあまりの恐怖にすぐそのポスターを後にしてしまったので、それが何を意味するのかは分からず終いであったが、非常に気になる点である。
 心理学者ユングは一見偶然のような現象の裏にある共通性として、シンクロニティという概念を提示した。ではこの「サンバ」現象の裏にも何かの意味が隠されているのだろうか。私がサンバの事を書いた直後に、このようなポスターを発見することに、何かしら意義がるのだろうか?
 そこで私は気がついてしまったのであった。
 こんなにもサンバが広まっている事態の裏には、秘密結社「サンバ」の暗躍がある。
 果たしてこんな重大なことをこの場で発表していいのか、私には分からない。これを発表することによって、私の命が危険にさらされる可能性もある。しかし、こんな重要な真実を秘密にしておくことは、私にはできないのである。私は声を大にして言いたい。気をつけよう、甘い言葉と明るいサンバ。注意一秒一生サンバ。サンバは常に貴方を狙っているのである。
 「踊り」という直接的なサンバだけではない。もっと広範な、いわゆる「サンバ的なるもの」においても、我々は侵食されているのである。
 最近スポーツはオリンピック一色に塗りつぶされている観があるが、あの開会式入場時の日本選手団の衣装に、「サンバ的なるもの」を感じないだろうか?森首相が原稿を読み上げる時のあの手つき。あれは何かラテン的な動きでは?
 あるいはどうだろう。次のような会話に何か「サンバ的なるもの」が隠されてはいないか?
「何、dai君。さっきから呑んでないじゃん!」
「いや、そんなことないっすよ。」
「何そんなに暗い顔しちゃって!私のお酒が呑めないっていうの!」
「いや、そういうわけじゃないんですけど…」
「ハイ、dai君、イエーイ!…何ボーっとしてるの!一緒にやるの!ハイ、dai君イエーイ!!」
「…イエーイ!!!!」
「ハイ、いっき、いっき、いっき、いっき…」
 この会話のどこがどう、「サンバ的」なのか、私自身にもうまく説明はできない。しかし確実に、「サンバ的なるもの」は我々の生活の中に入りこんできているのだ。
 秘密結社サンバ恐るべし!我々は常に監視されている!!「全人類サンバ化計画」はすべに最終秒読み段階に入っている!!!
 でも、俺サンバだいすき〜!!ウッヒョ−!!アモーレ・アミーゴ!!…「全人類参馬鹿計画」…。

To zakki

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